IR担当者に必要な知識とスキルとは?効果的な勉強方法を解説!
目次
株式市場に上場している企業にとって、IRが重要なものであることは言うまでもありません。
主な業務は株主・投資家向けの広報ですが、IRの活動が影響を与える範囲は非常に広いからです。
- 株価
- 株主・投資家との信頼関係
- 世間におけるイメージや印象
など、いずれも企業の根幹に関わるものです。
つまり、IRの活動次第で企業の行く末が決まるといっても、過言ではありません。
また、企業のいち社員という立場ではありますが、それはあくまで表面上の話です。
実際には経営者の立場、株主・投資家の立場、消費者の立場というそれぞれの視点で、物事を考えなければなりません。
だからこそ、IR担当者はやるべきことが多岐に渡っており、そのために必要な知識やスキルも数多いのです。
しかしIR担当者となったばかりだと、具体的に何が必要で、そのために何をすればいいか分かりませんよね。
前任者や上司などからレクチャーを受けられるのであればベストですが、様々な事情からそんな余裕がないことも珍しくありません。
そうなってしまうと、これからどうすればよいかと不安ばかり募ってしまうでしょう。
本記事ではIR担当者に求められる知識とスキル、またそれらを身に付けるための効果的な勉強方法を解説します。
IR担当者となる予定がある、IR担当者になって日が浅い・・・という方のお役に立てれば幸いです。
IRの使命と役割
IRは株主・投資家向けの広報を行うことが主な業務ですが、背負っている使命と役割はそれだけにおさまりません。
まず、自社はもちろん株主・投資家の利益を最大限にできるよう、尽力することが求められます。
既に資金を提供し応援してくれている株主には、今後も継続して応援してもらえるようにフォローアップをしていきます。
未来の株主である投資家に対しては、自社の現状と将来性を正しく説明し、資金を提供し応援する価値のある企業だとアプローチします。
ただし良い点だけをアピールするのではなく、自社の抱えている課題などの悪い点(改善すべきこと)があるなら、それも含めてしっかり伝えなければなりません。
企業のいち社員ではありますが、提供する情報に偏りを持たせてはならず、常に公正かつ公平であることが必要です。
また、株主・投資家と良好な関係を築くこともIR担当者の大切な役割です。
企業が活動していく中では、株価を上げるようなポジティブな発表やサプライズだけでなく、株価を下げる要因となり得るネガティブな発表やサプライズも必ず起こります。
そんな時でも、自社を信じて見捨てることなく応援し続けてくれる、株主・投資家が絶対に必要です。
そのためには普段から誠実に向き合い、株主・投資家に自社を信頼してもらえるよう務めなければなりません。
また、ポジティブ・ネガティブは関係なく、それが起こった理由や原因を明確にして、これからどうしていくかを説明する役割もあります。
以上の通り、IR担当者の活動には大きな責任が伴っており、失敗が許されない場面も多いです。
新任であるということや日が浅いといった言い訳は通用しないので、一刻も早く知識とスキルを身に付け、一人前にならなければなりません。
IRに必要となる知識
IR担当者には様々な知識が求められており、その範囲は広く深いと言えます。
具体的には、以下の5つが必要となります。
専門用語
IR担当者が活動していく業界では、非常に多くの専門用語が飛び交います。
投資に関する用語はもちろん、経済・経営用語など挙げればキリがありません。
しかしIR担当者であれば、専門用語をおさえておくのは最低限クリアすべき事項です。
- 貸借対照表や損益計算書などの財務諸表
- 株主・投資家への説明会
- 社内での会議
というように、どんな場でも専門用語は当たり前のように使われます。
つまりこれを理解していないと、IR担当者としてまともに仕事することはできません。
『TOB』や『IPO』といったアルファベットで構成されたものから、『アクティブ運用』や『アセットアロケーション』というものまで、聞き慣れない用語ばかりで最初は苦戦することばかりです。
ですが覚えていかなければ、IR担当者としてスタートラインにも立てないことを肝に銘じておきましょう。
投資に関連する法令
IR担当者にとって法令の把握は、最優先でしなければならない事項です。
万が一にも違反するようなことがあれば、自社の信頼を損ない社会的価値を大きく落とすことにも繋がります。
昨今はただ自社の利益を追い求めればいい・・・というものではありません。
コンプライアンスやコーポレートガバナンスが正常に機能していることが、企業活動における大前提とされています。
IRは株主・投資家から見ればその企業の顔と言っても過言ではないので、この点は十分に注意し慎重にならなければなりません。
直接的に関わることになる法令は、株式取引等についてのルールを定めている金融商品取引法です。
それ以外にも、会社法や労働基準法といった、各種法令に触れる機会が数多くあります。
企業の透明性を問う声は年々大きくなっており、法令を守ることは最低限のラインとされています。
だからこそ、IR担当者はこれをしっかりおさえておくことが求められます。
会計・財務
会計・財務と聞くと経理担当者を思い浮かべて、IR担当者にはあまり関係ないと思う方もいるかもしれません。
しかし実際には、これらの知識がなければ株主・投資家へ説明することは不可能です。
例えば上場企業が金融商品取引法によって義務づけられていることの1つに、貸借対照表や損益計算書などの財務諸表の提出があります。
財務諸表は公開されるものとなっており、株主・投資家が投資判断をするにあたって確認する重要な資料です。
当然IR担当者も内容を把握しておかなければなりませんが、これらを読み解くためには、会計・財務の知識が必須となります。
もし分からないとか曖昧な状態でいると、株主・投資家からの質疑で、彼らの満足いく答えは返せないでしょう。
また、自社の経営陣や各部署との会議等でも、失態を演じることになります。
そうならないために、会計・財務の知識を欠かすことはできません。
自社の現状と展望
IRは株主・投資家への広報が主な業務です。
広報とは自社を対外的に紹介することであり、だからこそ誰よりも自社のことを理解していなければなりません。
特に株主・投資家は現在と未来の資金提供者(応援者)として、企業の強み・弱みや課題と改善策といった、一般消費者が踏み込まない領域まで踏み込んできます。
また、財務諸表をはじめとする公開資料だけでは分からない、企業の実態や鮮度の高い新しい情報を、株主・投資家は求めています。
IR担当者がそうした情報を提供できるかどうかは、腕のみせどころといえるでしょう。
こうした場合にIR担当者がどこまで自社のことを把握できているかが、勝負の分かれ目となります。
競合他社の情報
どんな企業にも競合他社は存在しており、日々市場のシェアをめぐって争っています。
基本的に株主・投資家は、自分達により大きく利益を還元してくれる企業を探しているので、もし競合他社の方に魅力を感じれば、彼らはそっちに流れてしまいます。
だからIR担当者は自社に留まらず、競合他社の現状や戦略も把握していなければなりません。
それが自社のアピールポイントや、差別化するために必要なことを理解するカギとなるからです。
自社ばかりに目を向けて競合他社の動向を掴んでいないと、革新的なモノ・サービスを展開された時に、何の対策も取れず一気にシェアを奪われてしまう可能性もあります。
そうなれば、自社の株価低下や株主・投資家離れなど、マイナスの影響は計り知れません。
IR担当者はそんな事態を防ぐためにも、常に俯瞰的に市場を見つめ情報収集に務める必要があります。
IRに必要となるスキル
IRには知識だけでなく、実践的なスキルも求められます。
最低でも以下の3つは、IR担当者として身に付けておきたいものになります。
英語
今や株主・投資家は国内だけに留まりません。
国外の有力な株主・投資家も、日本市場に対して目を向けており、自分達の投資すべき企業を探しています。
現に国外の株主・投資家は、国内企業の株式を数多く保有しており、日々存在感と影響力を増している状況です。
IR担当者はその需要を逃さないように、国外の株主・投資家に対しても積極的に自社の情報を発信していかなければなりません。
また、東京証券取引所は2025年4月より、プライム市場に上場している企業に対して財務諸表等の情報を、日本語と英語の両方で開示することを義務づけることを発表しています。
このことからも、今後ますます国外の株主・投資家向けの情報発信は重要なものとなり、企業の行く末を左右することとなるでしょう。
そこでIR担当者に求められるのは、国外の株主・投資家と対等にやり取りするための英語力です。
彼らも自分の使っている言語での説明や解説は、その企業への信頼と安心感を抱く要因の1つとなり得ます。
直接対話する機会が数多くあるIR担当者には、英語が欠かせないスキルといえるでしょう。
説明力
IR担当者は株主・投資家へいかに簡潔かつ分かりやすく、彼らの求める情報を説明できるかが問われます。
ミーティングや決算説明会などではリアルタイムなやり取り、年次報告書などでは漏れなく文章でまとめるという風に、いわゆる説明力が必要な場面は数多くあります。
株主・投資家は様々な予定を抱える中、時間を作って企業のIRに参加しています。
それに見合う以上の価値ある情報を提供することが、IR担当者には課せられているといえるでしょう。
限られた時間の範囲内で、的確に要点をおさえて、漏れなく伝えなければなりません。
これ次第で株主・投資家は企業に不安を感じてしまい、離れてしまうことも有り得ます。
そうならないように、説明力を磨かなければなりません。
コミュニケーション力
IR担当者は、様々なステークホルダーと直接的・間接的に接する仕事です。
・自社の別部署の社員
・経営陣
・株主・投資家
・証券アナリスト
・一般消費者
そのどれでも必要となるのは、円滑に対話を進めるためのコミュニケーション力です。
特に経営陣と株主・投資家の間に立つパイプ役として、IR担当者は重要なポジションを担っています。
そのためには両者と普段からコミュニケーションを取っておかなければ、パイプ役は務まりません。
ビジネスシーンにおいて常に重要視されるのは信頼関係ですが、これを築く方法もコミュニケーションです。
どれだけ有益な情報があっても、それだけで株主・投資家は企業へ投資することを決めません。
その企業が信頼に値するかという点を必ず確認します。
そしてIRこそ、確認するための場といえるでしょう。
だからこそ、コミュニケーション力で彼らの信頼を勝ち取ることができるかが、IR担当者には求められるのです。
IRの勉強方法
IRとして必要な知識やスキルは、一朝一夕でどうにかなるようなものではありません。
また、闇雲に勉強しようとしても範囲が広すぎるので、「何を目的としてどう学ぶのか」をおさえておくことが重要です。
ここでは、5つの効果的な勉強方法をご紹介します。
書籍
書籍で勉強するメリットは、IRとしての基礎から応用まで、幅広く学ぶことができる点です。
体系的に執筆されているので、最初から最後までしっかり読み込めば、IR担当者に最低限必要な知識を身に付けられるでしょう。
また、著者自身がIR担当者としてどのように活動してきたのかという、体験談が書かれている書籍もあります。
長年IR担当者として多くの苦労・苦悩、成功体験を積んできた大先輩なので、IRの仕事がどういったものかというのが具体的に分かるでしょう。
このように、学びたいと思っていることに合わせて選ぶことができるという点でも、書籍は便利です。
1冊あたり2,000〜3,000円ほどで購入できるものがほとんどなので、コストもさほどかかりません。
自らのIRとしてのバイブルとなるような書籍を見つけるとよいでしょう。
新聞
新聞の最大のメリットは、非常に幅広い情報を網羅している点です。
・競合他社や業界の情報
・日経平均株価等の株式市場の情報
・国内・国外情勢
など、IRの活動に影響を与えるあらゆる事柄が把握できます。
リアルタイムとまではいきませんが、情報の鮮度も比較的高く、どのように推移しているかも分かるので、IR担当者として仕事をするなら、読み込んでおくべきです。
発行体によって想定している読者層は異なっているため、内容も大きく異なっています。
全国紙だけで5つ存在しており、全てを毎日読む・・・というのは現実的ではありません。
それぞれの特徴を十分に把握した上で、読む新聞を決めることをおすすめします。
ただIRという業種の特性上、日本経済新聞や産業経済紙のいずれかになるのが一般的でしょう。
セミナー
ひとくちにセミナーといっても、主催やターゲット層は様々です。
大まかにあげると以下の通りです。
・個人投資家向けの企業説明会
・機関投資家向けの企業説明会
・証券アナリスト向けのミーティング
・IR担当者向けの講義
直接的に役立つのはIR担当者向けのセミナーですが、それ以外のセミナーでも学べることはたくさんあります。
どのセミナーにおいてもターゲット層を明確にしているので、参加することでそれぞれの視点から勉強できるのは貴重です。
IR活動は多くのステークホルダー(利害関係者)と常に関わるので、情報を多角的に捉える視点は持ち合わせておくべきです。
また、各企業がどういったアプローチを投資家にしているのかも確認できるので、競合他社の視察という面でも役立つでしょう。
TOEIC
TOEICとは、日本語で『国際コミュニケーション英語能力テスト』と訳されています。
英語によるコミュニケーション能力を判定するもので、160カ国で実施されている世界的に有名なテストとなっています。
国内でも受験者は多く、教材もたくさんあるので勉強するのに困りません。
内容はビジネスシーンで使えるものも数多く、社会人にとって受けて損はないテストといえるでしょう。
いざ英語を勉強しようと奮起しても、目標がなければ何をどうすればよいか分からない・・という場合はTOEICが最適です。
近年ではTOEICのスコアを採用条件に含んでいる企業もあるので、将来的にも役立ちます。
IR担当者としても、社会人としても英語を学ぶにあたっておすすめできる勉強方法です。
株主・投資家とのコミュニケーション
IRの知識やスキルは、これまでにご紹介した方法で学ぶことが可能です。
しかし最も重要となるのは、やはり株主・投資家と積極的にコミュニケーションを重ねることです。
というよりIRの知識とスキルは全て、株主・投資家とコミュニケーションを円滑に行い、良好な信頼関係を築くためのものといえます。
彼らとのコミュニケーションは緊張感のある中、誤った情報を絶対に伝えぬように、そして誠実であるように・・・と大変なストレスのかかる場面も多くあります。
時には冷や汗をかくこともありますが、そうしてやり取りをしていく中で、必要な知識やスキルはどんどん身に付いていくでしょう。
IR担当者として自信を持ってコミュニケーションを取っていくことが、ひいては自社の印象に良い影響を与えることもあります。
ぜひ臆せずにコミュニケーションを取る機会を作っていきましょう。
株主・投資家とのコミュニケーションは様々な取り方がありますが、おすすめの1つはデジタルギフトです。
株主優待の商品や、自社主催のセミナー・イベントへの参加景品など、幅広い用途で活用できます。
使い方は簡単で交換先も豊富なので、株主・投資家にとっても嬉しいでしょう。
印刷費や郵送等のコストがかからず、必要分だけ購入するなど予算の範囲内におさめることも容易なので、導入を検討してみてはいかがでしょうか。
まとめ
本記事では、IR担当者に必要な知識とスキル、効果的な勉強方法について解説してきました。
IRは株主・投資家向けの広報が主な業務ですが、社内外問わず多くのステークホルダーと関わり、企業の顔となる立場でもあります。
だからこそ知識とスキルを早く身に付けて、使命と役割を果たせるようにならなければいけません。
本記事はもちろん、あらゆるものから情報を吸収していきましょう。