【IR担当者向け】株式流動性の重要性とリスク、改善策を解説!
目次
株式流動性は投資家が市場で損失を避けるためにも重要な指標です。
また、企業側にとっても安定して経営を続けていくためには流動性が高い状態を維持する必要があり、特に上場企業にはそれが求められます。
本記事では株式流動性そのものの説明はもちろん、リスクや改善策についても紹介していきます。
企業でIR(投資家向け広報活動)を務めている方に有益となる情報も記載していますので、ぜひご覧ください。
株式流動性とは
株式流動性とは株式が簡単に売買できる状態のことです。
言い換えれば「換金(現金化)のしやすさ」であり、会社の財政状態を映す鏡のような指標とも言えます。
また、発行済株式数、取引株式数、財務実績などが株式流動性の構成要因になります。
株式や債券の場合、発行数や信用力、取引高が大きい方が流動性を確保しやすい傾向にあり、現預金などのキャッシュが潤沢な企業もそれに該当します。
「売りたいときにいつでも売れるかどうか」がポイントです。
企業が経営をするうえで株式流動性はとても重要な指標と言えます。
その理由はいくつかありますが、市場の効率性を高めたり、投資家がより多くの情報に基づいて投資を判断できたりするメリットがあります。
流動性の高い企業は資本コストが低くなる傾向にあるため、成長と拡大を目指していくうえでも流動性は有益です。
また、市場が低迷した際には投資家の迅速なポジション変更を可能にする点からリスク管理の面でも効果を発揮します。
投資家目線で見た場合、いくら余裕資金を投資に回していても世界情勢や経済状況、それに伴う企業動向の変化などによって、いきなり多額の現金が必要になることもあり得ます。
売るべき時に売れなければ投資家は莫大な損失を抱えてしまいますが、それを少しでもやわらげるために株式流動性がセーフティー・ネットのような役割を果たしていると言えるでしょう。
そのような有事の際に備える意味でも、投資家としてもすぐにキャッシュに換えることができるものだけに投資しておくことが資産運用をおこなううえでは重要です。
株式流動性の測定には「ビッド・アスク・スプレッド」や「インプライド・ボラティリティ」といった算出法が用いられます。
ビッド・アスク・スプレッドとは、買い手が株に支払う意思のある最高価格と売り手が喜んで受け入れる最低価格の差分で流動性を求める算出法です。
一方のインプライド・ボラティリティは、実際に取引されているオプション価格から算出された将来の株価変動率のことで、「予想変動率」とも呼ばれています。
流動性の高低を判断する基準
前章で流動性そのものについてはある程度理解が進んだかと思いますが、流動性が「高い」もしくは「低い」という言葉がどのような状態を指しているのかという点についても説明していきます。
まず、冒頭で述べた「すぐに換金できる」状態であれば流動性は高いと言えます。
また、市場においては過去5年間の売買代金を見て、その代金が大きいほど流動性が高いと判断されます。
流動性が低いのはこの逆であるため、「すぐに換金できない状態」ということが言えるでしょう。
例えば、自らが所有している土地を売ろうとしても売れるまでにはある程度時間がかかります。
すぐにお金が自分の口座に入金されるわけではないので、この場合は流動性が低い状態です。
流動性の高低を株価にも当てはめてみます。
例えば、現時点で株価100円の銘柄があるとします。
流動性が高い銘柄であれば、すぐに注文を出せば100円で買うことができるでしょう。
一方で流動性が低い銘柄の場合、売り注文が少ないため110円や120円を支払わないと買うことができない可能性があります。
この株を売る場合で考えてみても、流動性が高い銘柄であれば100円で売ることができますが、低い銘柄は買い注文が少ないため90円や80円でなければ売れないかもしれません。
大まかに言えば、流動性が低いほど損失の機会を受けやすいということです。
では、流動性の高低は具体的にどのような基準で判断されているのでしょうか。
一般的には「発行済株式総数が2億株超の銘柄」と「資本金が1,000億円以上または10億株以上の銘柄」の主に二つで判断されます。
そのため、東証一部上場企業などの大企業が該当することが多いです。
また、流動性が高い銘柄のことを「大型株」と言います。
東京証券取引所では東証一部の銘柄を時価総額の大きさと流動性の高さでランク付けした「TOPIX100」を公開していますが、TOPIX100における上位100社の銘柄を大型株、101位から400位までの銘柄を中型株、400位以下の銘柄は小型株と呼んでいます。
TOPIX100はその時々の市場実勢をより適切に反映させる目的から毎年見直しがおこなわれており、年単位でランキングが入れ替わることも珍しくありません。
ただし、企業の上場廃止や合併などのイレギュラーがあった場合は、不定期で実施されるようになります。
流動性が高い銘柄20選
では、TOPIX100に名を連ねる銘柄を実際に見てみましょう。
ボリュームの都合上、ここでは2024年9月10日時点の時価総額順に並べた上位20銘柄を掲載しています。
- 7203 トヨタ自動車
- 8306 三菱UFJフィナンシャルグループ
- 6758 ソニーグループ
- 6861 キーエンス
- 6501 日立製作所
- 9983 ファーストリテイリング
- 9432 日本電信電話
- 6098 リクルートホールディングス
- 8001 伊藤忠商事
- 8058 三菱商事
- 8316 三井住友フィナンシャルグループ
- 9984 ソフトバンクグループ
- 4568 第一三共
- 4063 信越化学工業
- 4519 中外製薬
- 9433 KDDI
- 8035 東京エレクトロン
- 8766 東京海上ホールディングス
- 7974 任天堂
- 9434 ソフトバンク
左端の数字は証券コードです。
いずれも日本を代表する大企業が並んでいますが、全体的に金融や通信などの業界から多くランクインしていることが分かります。
「株は経済を映す鏡」と言われますが、近年国民の関心が高まりつつある投資や今では私たちの生活に欠かさせないものとなったスマートフォンなど、今後も期待と持続が見込まれる商品やサービスを提供している企業は将来的にも株式流動性が安定して高い状態が続くかもしれません。
単純に株価の動向を追うだけでなく、社会情勢や企業の変化にも目を向けることが投資家に必要とされるのはこのような所以です。
抑えておきたい流動性リスク
知名度や信頼性の高い大企業の株式は流動性が高いことがお分かりいただけたかと思います。
しかし、そんな大企業の株式も決して安泰というわけではありません。
流動性にも少なからずリスクは存在します。
では、一体どのような場面でリスクが生じるのでしょうか。
代表的なケースとして、株を発行している企業側に大きな問題が発生したときが挙げられます。
例えば、虚偽記載や粉飾決算といった不祥事が発覚した場合、上場廃止の可能性が出てきます。
仮に廃止となった場合、配当を受け取る権利は保持されますが、市場を通して株を売買することはできません。
そうなると損失を避けたい投資家は我先に株を売るため売り注文が殺到することになりますが、ブランドに傷が入った株を買いたがる買い手は大幅に減るため値は付きにくくなります。
ちなみに、上場廃止が決まった銘柄は各取引所の「整理ポスト」に移されます。
1か月後には上場廃止が正式に決定するため、投資家はその間に取引を終える必要がありますが、この時点で利益が生まれる取引になることはあまり期待できません。
既に流動性が低い状態に陥っているため買いたい価格や売りたい価格で売買ができず、当初の株価より大きく離れた価格で取引が成立してしまうことが考えられます。
最悪の場合は売買自体が成立しないこともあり、投資家はこのようなリスクがあることに十分注意して取引に挑む必要があります。
流動性リスクは突発的に起こります。
その場合、取引量が激減することは避けられませんが、急いで取引に進むことが必ずしも最適な対処法ではありません。
金融市場が急変した後には遅かれ早かれいつかは安定期がやって来ます。
嵐が去った後は再び流動性が高まる可能性もあるため、慌てずに静観する選択肢を持っておくことも投資家としての幅を広げるチャンスです。
流動性を改善するためには株主優待が有効
流動性リスクを抑えるためには、新興市場の銘柄を買うことは避け、流動性の高い東証一部上場企業の銘柄を選ぶことが最もシンプルかつ分かりやすい方法です。
しかし、前章でも説明したとおり大企業の銘柄にもリスクは付いてくるため、これはあくまでも基本的な処置に過ぎません。
特に自力で市場をコントロールできない投資家とは違い、企業側は自社を守る意味でも根本的かつ恒久的な対策を実施して流動性を改善していくことが必要です。
改善策はいくつかありますが、より長期的な目線で考えるのであれば株主優待の導入や見直しが効果的です。
株主優待は一般的に株価の流動性指標を改善し、企業の株価上昇に好影響を与えるものとされています。
日本ファイナンス学会が2019年に発表した「株主優待制度の導入目的とその効果について」を見ると、「個人投資家の獲得や増加」や「長期保有株主の増加」を株主優待の主な導入目的にしている企業が多いことが分かります。
実際に優待制度を設置する企業は増加傾向にあり、上場企業全体で設置している企業の割合は1996年で13.3%でしたが、2016年には35%を超え、20年間で20%以上の上昇率を見せました。
ちなみに、2022年9月末時点でも上場企業の約4割にあたる1,463社が株主優待を導入しています。
株主優待は企業と株主の距離を縮め、より良好な関係を築くための施策として実施されていますが、企業にとっては自社製品をアピールする機会でもあります。
一時期は上場企業全体の9割近くが自社製品を優待品として株主に贈っていましたが、近年では5~6割程度まで下がっており、商品券やカタログなど自社には直接関係のない非自社製品に切り替える企業も増えています。
これには各企業の専らの課題である「個人株主の獲得拡大」が強まっていることが背景にあり、自社製品に比べてコストはかかるものの、個人単位で喜ばれる優待品を重視する時代に変化したということが言えます。
また、個人株主が少なく、全株主の数が東証一部上場の基準に接近しているほど、翌年の株主優待導入につながることも調査によって判明しています。
企業ごとで株主優待導入の目的は異なりますが、流動性の改善や株主数の増加を必要としている場合は一度検討してみることをおすすめします。
株主優待にはデジタルギフトがおすすめ
株主優待制度を導入する企業が年々増えていることは確かですが、その伸びはやや鈍化しています。
要因は様々ですが、非自社製品を採用する企業が増えたことによって他社と優待品が重複したり、代わり映えの無いものに固定されたりするなど優待制度のマンネリ化が進んでいることも一つと言えるでしょう。
実際に株主優待にメリットを感じない投資家は存在しており、このままの状況が続けば企業にとっても本来の目的である株主との距離を縮めることと逆行してしまいます。
企業の関係者にとっては頭が痛い問題かと思いますが、今後自社を発展させていくためには、特に個人株主に「いいね!」と思わせる優待品を考えることが必要です。
そんな悩みを抱える企業におすすめしたい優待品が、デジタルギフトです。
デジタルギフトは「支払いのDX化」を象徴するサービスであり、株主の利便性向上が期待できる点からも注目を集めています。
会員登録は不要で、誰もが簡単に自分の欲しいギフトを自由に選択することができます。
これまでの優待品に多かった商品券や品物などのモノではなく、QRコードを読み込めば「即時に受け取り、利用ができる」を体現した斬新なサービスです。
なお、受け取ったギフトは好きなものから交換することが可能な仕組みになっています。
交換先は「PayPay」や「Dポイント」、「auPay」といった各種キャッシュレス決済から「Amazonギフトカード」や「Uber」などのサービスまで幅広いことが特徴です。
また、交換先は今後大幅に拡充していく予定です。
また、株主優待には送付する際に代表者の挨拶文を同封することがありますが、デジタルギフトであればそれらを動画やアンケートに置き換え、以前は一方向のみであった企業→株主というベクトルを双方向のコミュニケーションに変えることもできます。
スマートフォンを誰もが持つ時代であることを考えれば、動画上でメッセージを見る方がより企業への理解が進み、アンケートの回答率も高くなるでしょう。
アンケートは株式保有の動機や企業への期待など株主のリアルな声を集められる貴重な機会であり、中長期の経営戦略を考えるうえでも重要な役割を果たします。
さらに、これまで紙に手書きで書かれたアンケートをデータ化していた企業にとっては自動集計に切り替えることができるため、事務負担の大幅な軽減が期待できます。